Mokkun開発秘話

開発担当から見たMokkunの真実 Truth of mokkun

「来年は、Mokkun(木の塗り壁)の商品開発に力を入れてほしい」
社長から突然そう言われたのは平成26年の秋でした。
その当時入社2年目(中途入社)の私は、このMokkunがいったいどんな商品で
どんな可能性を秘めているのかを まだ十分に理解しているとは言えない状態でした。

1.「ひらめき」と「もったいない!」から生まれた塗り壁材Mokkun

一般的な端材利用の流れの例
一般的な端材利用の流れの例

「もったいない!」
そもそもの発想はいかにも日本人的なこんなキーワードからでした。
岐阜県には「東濃桧」というブランド材があります。東濃桧の産地は日本ではヒノキ材の生育地としてはほぼ北端にあり、その材は艶があり、見た目もほんのりピンクがかったとても美しい高級ヒノキ材です。こういった材料が端材というだけで、燃料になったり、山で放置されたり、地元の家庭の薪となったり、または家畜の寝床に敷かれたりと、そんな使われ方をしていました。

長く材木業界の仕事をしてきたヤマガタヤ産業3代目社長である、現社長が最初にこの発想を持ったのは、今から約15年前の事でした。
木材業界の3代目社長である吉田芳治の経歴は少し変わっていて、東京での大学生活終了後、この業界ではなく当時の松下電工株式会社 名古屋営業所で営業として社会人生活をスタートさせています。その後数年働いたのち、父親の経営するヤマガタヤ産業(株)に一営業として入社することになるのです。
その時から木材については一から学んで行ったことになります。ただ持ち前のチャレンジ精神と湧き起こるアイデアは、そのころから今に至るまで変わることなく彼の特性としてあり、安定的な立場にあっても常に新しいものを生み出そうとする気持ちがあったのだろうと思います。

「何とかならないものか?」「これだけの価値のある資源を無駄にしてしまっていいものか?」「燃やすのは最終手段でいいんじゃないのか?」岐阜のブランド材の扱いを目にしながら現社長の吉田は、常々こんなことを感じていました。

アイデアマンでもある彼は、日頃から何かアイデアが浮かぶとすぐにメモを取る癖があります。毎晩ベッドの枕元にもそのメモを置いて眠りに入ります。この時も何気ない普段の生活の中で、ふとひらめいたと言います。

粉砕したヒノキの木粉
粉砕したヒノキの木粉

「この端材は粉状に加工できないか?もしかしたら住宅の中で塗り壁の素材として使えるんじゃないのか?」ふとそんなことが頭に浮かびました。粉状にさえできれば、それを使って他の製品を作れるのではないか、そう考えました。

善は急げと、さっそく様々な情報網を駆使して木粉に関する情報を集めました。その中である工場で木粉を使ってそれをベースに商品を作ろうとしている業者を見つけました。それはある地域の産廃業者でした。産業廃棄物として捨てられる木材を集めて、それらを粉砕加工し、別の商品を作ろうとしていたのです。
すぐに現地に出向き、話を聞きました。木粉への加工はその産廃業者が、そして製造と販売はヤマガタヤ産業が行う形でこの事業がスタートしました。
ヤマガタヤ産業にとっては全く初めてとなる商品開発で、その当時そのノウハウもなく、手探りで始めるしかありませんでした。そんな中で何度も試作を繰り返し、ようやく出来上がった塗り壁が最初の「Mokkun」なのです。
今でも社長の自宅の一部にはこの時の第1号のMokkunを塗った壁が存在しています。記念すべき第1号の施工例です。

2.Mokkunに訪れる失敗と挫折

未利用資源の有効活用ということで、今までにない利用方法を見つけ、うまく販売できると思っていました。社内の営業マンも自社の新商品ということで積極的に売り込みを開始しました。ですが、現実はそんなに甘くはありませんでした。施工例が増えるたびに次々にクレームが起こりました。
新築住宅の施工現場に営業が駆けつけてみると、新しく塗ったはずの壁一面が真っ黒になっていたり、部分的にシミの様なものが浮かび上がっていたりしました。原因を調べていくうちに分かったのですが、木材は鉄と反応を起こすのです。柱に鉄のくぎを打ちつけると、その周りだけ錆の様なものが発生していることがあります。これがその反応です。
この時使用していたMokkunは産廃の木材(古材)なので、釘が打ってあった後の錆もその中に含まれていた可能性がありました。材料が原因で鉄汚染が起きてしまっていたのです。また施工時に鉄製のコテを使用されたために、その塗模様と同じ形で黒色の筋が出たこともありました。Mokkunにとって鉄は大敵なのです。

原因が分かった後で、慌てて営業担当が現場に出向き、その反応を沈下させる溶液を噴霧して回りました。時には夜中の作業になったこともあったと言います。初期の段階でこんなことが続いて起こり、会社はクレームばかり抱えて全く利益が上がらないということが起こりました。

社長は原料や配合を変えて、再度製造しなおす計画をすぐに立てました。ところが反対の勢力は思わぬところから巻き起こったのです。社長の父親である会長が猛反対しました。「これ以上クレームの元となる商品は作るな。」「新たな商品開発への投資もするな」
その当時社内の上層部にも力が及ぶ会長の一声で、社内の動きはピタッと止まりました。止まるしかなかったのです。これを世の中に出したい!という社長の願いはかなわなくなってしまいました。

そうして次第に社内では、Mokkunはクレームを引き起こす欠陥商品だというイメージを持つ社員が増えて、その後会長が退いた後で、プレカットの端材(新材)を原料に切り替えた後も、そのイメージが払しょくできず、だんだん販売量も減ってきてしまいました。
気が付けば次第に営業も積極的に販売しない商品となっていました。

3.いいもの×証明=説得力

その後何年か経ちそういった騒動も忘れかけたころ、社内に「営業推進室(現戦略企画室)」という部署ができ、女性チームで商品開発・広報・販促品開発などをする体制を整えた段階で、私が入社した形になります。
またそのころ社内にはMokkun専用の男性営業も配属されていました。様々な準備が整いつつある中で、時代も「エコ」に注目する流れとなり、自然素材が見直されてきていました。また世の中には「珪藻土」「漆喰」という塗り壁が認知され、そのブームがいったん一段落し、業界の中ではこれらに代わる新しい素材を探す動きも出始めていました。今思えば満を持しての社長の決断だったのかもしれません。

 私は人生において常に心に止めている言葉があります。「3C-Chance, Challenge, Change」自分自身に言い聞かせている言葉でもありますが、「チャンスに気づくこと、それをやってみることで自分や環境が変わる」簡単に言うとそういうことです。それまでの人生経験の中で、学んできたことでもあります。
この時もとにかくまずはやってみようと、まずMokkunとはどんな商品なのかを周りの人にヒアリングしたり、商品について行政の方などに販路拡大方法について相談を始めました。その中で現在抱えている問題点を整理していったのです。
そして一番の問題は「いいものだということは分かっているのに、それを証明するものが何もないから説得力がない」ということだと気づきました。

4.Mokkun商品開発の戦略、様々な試験の始まり

Mokkunの販路拡大をするためには、まずは様々な実験を実施しエビデンスを獲得し、公的機関のお墨付きをもらう事が最低条件だと確信していたのでそれを限られた予算で実行する方法を探っていきました。

地方の中小企業が製品の性能評価をしながら、新商品開発をしていく。これには経営陣の覚悟と大変な投資が必要になります。このケースはおかげさまで社長の強い思いはそこにありましたので、出発することはできましたが、投資という意味では、それに十分な予算も人もかけられるだけの余裕はありませんでした。まして前回のこともあり、今回がほぼ初めての商品開発ということで、今までに培ったノウハウもありません。

私はまずは、この事業計画を少ない予算で実行するためのアイデアを考えました。私は岐阜県林政部県産材流通課、岐阜県中小企業団体中央会、岐阜商工会議所、中小企業基盤整備機構など、思いつく限りの社外の方に相談しました。岐阜県にはありがたいことに、中小企業を全面的にバックアップしてくださるような機関がありました。そのうちのひとつが「岐阜県産業経済振興センター」です。ここには、様々な分野で活躍されたコーディネーターと呼ばれるようなアドバイザーがおられその企業に最適な形でサポートをしてくださる体制ができていました。商品開発の事、産学官連携の事、資金の事、様々な相談をさせていただきました。

そこで相談をするうちに、岐阜県には農商工連携ファンドというものがあり、事業者が農業者との連携を組んで商品を開発する事業を支援する制度があることを知りました。初めての試みでしたが、皆さんのアドバイスを聞きながら手探りで進めました。まずは端材を供給してくださる森林組合と連携を組み、慣れない書類作りで苦労しながら何とかプレゼンもこなし、無事に事業が認められたときはホッとしました。
そこからがMokkunの様々な試験が始まっていったのです。

5.共同開発で生まれた貴重な財産

岐阜大学名誉教授 箕浦先生
岐阜大学名誉教授 箕浦先生

まずはMokkunにどんな性能があるのだろう? 何の性能評価データがあったらいいのだろう? そんなことを考えながら今まで施工に関わったことのなる人たちへのヒアリングを始めました。
その中で意見の多かった調湿、抗菌、消臭などの性能評価をしようと思いましたが、次に問題になるのは、「どこで試験してもらえるの?」という初歩的なことでした。文系出身の私には、それまで全く縁のなかった世界で、評価試験などについては考えたこともなかったからです。社内にももちろん詳しい人はいません。

私はその当時戦略企画室という名前はとても強そうなイメージの部署にいながら、広報・営業サポート・海外事業・人事・商品開発などのバリエーション豊かな仕事内容をこなしていました。もちろん社内には商品開発部はありませんし、実験室も無菌室もありません。過去にだれもやったことがないことに挑戦していくというのは、40代後半にさしかかろうかという文系出身の女性には、少々ハードルの高い作業でした。

困り果てた私は、その当時親しくしていた岐阜県産業経済振興センターのコーディネーターであった、自分の出身大学名誉教授の箕浦秀樹先生を訪ねたのです。先生にいろいろ相談に乗ってもらいながら、産学官連携について指導をうけました。
できる限り、大学等の機関でこれらの試験を行おうと思ったからです。それが会社にとっては産学官連携という貴重な機会にもなるし、色々な方々に広く商品を知っていただけるのではないかと思いました。

産学官連携と一口に言っても、先生方のところへは毎日様々な企業がそういったお願いにやってきます。その全部の企業に協力してもらえるわけではないと思うので、簡単なことではありません。私はまずはそのコーディネーターのかたに自分たちが開発しようとしている商品について、その魅力、取り組む意義などを語りながらまずは商品のファンになってもらいました。そこから様々な大学の先生方を紹介していただく中で、基本的には商品のコンセプトに共感していただいて商品を一緒に作りたいと思っていただけるようにまずは話をしました。先生方との関係性を作る中で、共同研究などの連携を行っていただけるようになりました。
また、私が思っていた以上に、大学の先生方はお忙しい方が多かったのですが、みなさんとても商品に対して好意的で、知識のない私にも分かるように一緒になって研究を進めてくださいました。私にとっても県内の様々な大学や工業高等専門学校に通うようになり、少し学生気分を味わえたのも楽しい時間であり、とても貴重な時間でした。
そうした中で出てきたデータが「調湿」「抗菌」「消臭」「蚊よけ」「香りによるリラックス」の様々な効果なのです。もちろんそういったエビデンスは大変価値のあるものですが、私にとってはこれに関わってくださった先生方とのつながりが何より財産となりました。

6.社内実験で日々進化を続けるMokkun

産学官連携での実証実験もさることながら、社内でも様々な試験を頻繁に行い、その記録を取りました。

Mokkunは優れた性能を示しますが、自然素材ゆえに施工時に気を付けるポイントはいくつもあります。たとえば、塗る前の下処理の工程を一つ省くと、仕上がりが大きく変わってしまいます。鉄の道具を使うと、木の成分が変色してしまいます。そういった様々な現場でのラブルをひとつひとつ整理し、社内でも実験をし、どうやったらそれらを防げるのかを考えていきました。
また消臭や調湿の実験では、クロスとMokkunを比較できる部屋の模型キットを作り、実際に中にアンモニアや匂いの強い食べ物を入れて臭いの変化を体験したり、熱いお湯をキットの中に入れて結露の違いや湿度を測定したり、実験室のない弊社では時には倉庫内で実験することもありました。そういった数々の実験記録も人には見せられないほどの失敗もありますが、楽しい時間でした。

こういった社内実験の様子はサイト内もっくんラボでも公開しています。
社内試験の中には商品の配合を見直すことも含まれました。全くの手探りの状態で、何を配合するのか、どの材料が最適なのか、配合量は?という全く見えないものに立ち向かうという無謀なことにも挑戦しました。今でもこれが正解なのかどうかは分かりませんし、日々新しい配合や新素材についても考えています。

そうやって職人でもなく、理系でもないいわば素人の私が商品の知識をつけていきました。

調湿性能比較実験の様子
調湿性能比較実験の様子

7.木の塗り壁なのに「燃えない」を目指して

国土交通大臣不燃認定書
国土交通大臣不燃認定書

あるとき営業さんから「これで不燃の認定が取れたら、もっと販路拡大ができるのになあ」と言われました。
「不燃?何のこと?どういう意味?木だけど」その時の私はそんな感じでした。公共建築物では不燃素材を内装材に使うことが義務付けられており、また店舗等でも不燃素材である必要があるので、もしこのMokkunが不燃認定を受けた素材だったら一般住宅以外でも施工ができるし、広い面積の施工ができるうえに、不特定多数の人に見てもらえるから販路拡大につながるという意味だったということは、その後で知りました。

「木なのに不燃なんてあり得るの?」まずはそんな素朴な疑問がわきます。
日本の不燃認定というのは、燃焼試験で一定の熱を加え、その試験体がある一定時間内に決められた総発熱量を越えなければ、その時間に応じて、不燃、準不燃という認定が受けられます。これは国土交通大臣による大臣認定になります。
それにしても主成分は木だというのに、燃えにくい壁材にできるのだろうか?そんな不安もありましたが、まずはトライです。
不燃認定について一から調べました。いったいどこに申請して認定を受けるのか、そんなことから調べ、まずは試験機関のある大阪府吹田市まで出向いて、担当の方に話を聞きました。
一連の流れが分かったところで、高額な本試験の前に予備試験を行うことができる機関を探しました。運よくその当時共同研究をお願いしていた岐阜工業高等専門学校 建築学科中谷先生(現信州大学 農学部助教授)の知り合いがそういった機関にお勤めだということで、先生の紹介を受けてその方に配合や施工方法など基本的なところから相談しながら不燃認定が受けられるような配合を探っていきました。

何度も不合格を繰り返し、そのたびに配合を変えてチャレンジを続けました。トータルで20回以上は試験をしていると思います。
何度も何度も予備試験をして、そのたびに頭を悩ませました。最後に試験に合格できる可能性の高いデータが出た時の感動は言葉では言い表せません。社会人になってからこれほど感動した体験はないかもしれません。

ありがたいことに、その後の不燃認定試験も無事に合格し、国土交通大臣より認定書を発行されました。このことにより、最近では様々な老人施設、公共施設などでの施工も徐々に始まってきています。いよいよ内装木質化に向けての新しい商材として打って出るタイミングが来ています。

8.「自分たちの地域材で作れないだろうか?」Mokkunに訪れる地産地消の波

そうやって開発した商品を引き下げて秋以降は東京で開催される展示会に何度か出展するというのが、これ以降の毎年の定番スケジュールになっています。
新たなデータも取得し、性能を表すエビデンスもたくさん手に入れました。不燃認定も取りました。どこに出しても恥ずかしくない塗り壁になったと意気揚々と展示会で商品の説明をしていました。来場者の反応はそれほど悪くない、でも「東濃ヒノキ」という岐阜のブランド桧に対する反応はそれほどでもない。まあ、そんなものなのかもしれないな。

そんな感覚を持ちながらブース内での説明を続けていると、ある業者さんから「自分たちの地域材で作れないだろうか?」という相談を受けたのです。

ご当地Mokkunパートナー店マップ
ご当地Mokkunパートナー店マップ

「そうか、これか!」目からうろこの発言でした。すぐにアイデアがひらめきました。
東濃桧で作るということが自分たちにとって当たり前になっていたので、それまで全く気付かなかったのですが、日本全国どこも地産地消の動きが推奨されています。地域材を使ったMokkunであれば販売しやすいし、各販売先の業者が行政の補助金を使える可能性があるということにようやく気付きました。
これがご当地Mokkun誕生の瞬間なのです。
今では15府県までひろがったご当地Mokkunブランドですが、そういった戦略が最初からあったわけではなく、最初はこんなはじまりでした。
そこから各地の地域材を集められる業者でMokkunを販売したいと言ってくださる方々との契約をしていったのです。基本的に決めていたのは、各県に1社だけ販売店を作ること(東京都はのぞく)ご当地の材料をこちらに送ってもらって、決められたロット数で製造し全量を購入してもらう事ぐらいでした。そこから各地域の同じような木材を扱う業者様たちとの交流が始まっていきました。

9.Mokkunが他社との懸け橋に

各地域のご当地Mokkun販売店の方々と交流したい、皆さんの困っていることを一緒に解決したい、Mokkunについて皆さんに最新情報をお届けしたい、そんな思いから今までにシンポジウムを岐阜で2回開催しています。どちらも実際の販売店様だけでなく、この商品に興味を持たれている業者の方々、販売店を検討している方々、また学生や一般消費者の方までもが集まるシンポジウムとなりました。

ご当地Mokkunパートナー店マップ
シンポジウム会場

当初は全国各地に散らばっている販売店の方々に最新のMokkunの情報を共有する場であり、また各販売店の販促の用などを交流場としての役目が強かったのですが、こういった機会は別の意味も持っていました。
シンポジウムの終了後に、ご当地の販売店の方々との懇談会も設けましたが、地域の販売店の皆様の抱えている問題はみなさんよく似ていて、その中で各社の取組を聞きながら様々なヒントをもらえるような貴重な会となりました。

木の塗り壁Mokkun製造工程
木の塗り壁Mokkun製造工程

このシンポジウムをきっかけにして取り組みが始まった新たな事業もいくつかあります。Mokkunという商品がなかったら、知り合うことも仕事上でお付き合いすることもなかっただろうと思うと、このMokkunのパワーには驚かされます。
Mokkunは確実に私たちの力を貸さなくても、人づてに話が伝わっていきます。展示会で名刺交換したわけでもない業者様から問い合わせを受けることもあり、実際に製品を使いたいという声もいただきます。自分たちが知らない間に、施設設計の中に壁材の仕様として組み入れられているというケースもあります。
商品情報が人から人へと伝わるように、商品が私たちの立派な営業マンになっていると、私は感じています。

10.お客様の求めるMokkunとは?

発売当初のMokkunのキャッチフレーズは100%自然素材の木の塗り壁でした。この時は捨てられてしまう端材から作ったということで、未利用資源の有効活用にスポットを当てていました。

現在のキャッチコピーは「眠れる 森の塗り壁」です。この壁がエコだけでなく、健康に寄与するものであるということを全面に打ち出してPRしています。

Mokkun施工例写真
Mokkun施工例写真

この点について、自分に置き換えて考えてみました。
「この商品を買うとエコ活動になりますよ」そういった目線で商品を見た時に、これを買おうと思うケースは、その商品の持つ社会的意義に賛同した場合なのだと思います。もちろんそれは素晴らしいし、そういった目線に立って購入したいと思います。ですが、これは果たして全員がそう思うでしょうか。
「この商品は家族の健康のために役に立つ可能性があります」そういう切り口にした時に、同じ商品でも消費者のとらえ方はガラッと変わります。健康というキーワードは自分を含め、家族など自分の身近な人全員が対象となってくるとても重要なポイントだからです。特に昨今のテレビ番組やスーパー等で並んでいる商品棚をみると国民の健康志向が顕著に表れていると思います。
Mokkunについては、それが分かっていて狙ったわけではありませんが、色々商品の性能評価をしていく中で、健康特に眠りに関してとても重要なキーワードを持つ商品だということに気づいてからは「木と健康」というテーマに重点を置いています。
これはお客様方の反応を見るうちに、見えてきたことでもあります。

11.Mokkunにはストレス軽減効果がある!?

岐阜大学応用生物科学部 光永教授
岐阜大学応用生物科学部 光永教授

私達が「健康」というテーマに関心を持ち始めたころ、ある教授との出会いがありました。地元岐阜大学応用生物科学部の光永教授でした。先生は木の香気成分が人体に及ぼす影響について研究をしており、それは私たちの意図するものとまさしく合致していたのです。
偶然にも岐阜大学は私の出身大学ということもあり、卒業後約30年もたってから頻繁に出身大学に通えることとなりました。久しぶりに歩くキャンバスはとても懐かしいものがあり、景色ひとつひとつがとても新鮮に感じました。学生のころは何とも思っていなかった景色なのに…
光永教授とは、マウスに木の香りをかがせたあと、自律神経がどのようなバランスになるかということであったり、ストレスを与えたマウスをMokkunヒノキ、Mokkunスギ、クロスなど様々なタイプの壁のケージで飼育し、その時の自律神経、各臓器の重量、体重増加、嗜好性などのデータを取るなどの実験を繰り返し行っています。

これまでの研究では、明らかに木の香りを嗅ぐことによってストレスが軽減し、それに伴い体の各臓器も反応していることが分かってきています。
日本の中では昔から「森林浴」という言葉があるように、木が心と体にとって良いものであるというイメージは強くあります。ですが、実際それを解明するようなデータはあまり出ていません。ここを追求していくことで、木が健康に及ぼす影響がもっとはっきりすれば、日本の住宅にも何か変化が起きるのではないかと感じています。

12.Mokkunは実演とマイクパフォーマンスで売れ!

いつかしら出展する展示会での私の役目は「マイクパフォーマンス」係になっていました。
「Mokkunは実演とマイクパフォーマンスで売れ!」これも現社長のアイデアです。
Mokkunについて社内で一番知っているだろうということで、販売店で開催される勉強会や営業と同行して商品説明をする機会も増えていましたが、大勢の前で、また道行く人を呼び込んでのマイクパフォーマンスは私にはかなりハードルが高いものでした。
若いコンパニオン風の女性が立ち並ぶような展示会の中で、この私が???と思いましたが、そこは持ち前の3C精神でトライし続けています。 それでも最近ではマイクを持つと、もうそれは芸人にでもなったかのように割り切って盛り上げています。ただ一方的に話をするのではなく、できるだけ来場者の方との掛け合いになるようには心がけています。このスタイルが良かったのか、うちのブースにはいつも人が押し寄せているイメージがあります。
会場に来ていた芸能人や政治家夫人などの著名人がブースに訪れられることも珍しくなく、時にはテレビ局の撮影クルーがやってきて突然そこで番組撮影が始まるということも何度かありました。
なかなかない貴重な体験をさせてもらいながら商品をみんなで盛り上げてもらっています。「マイクパフォーマンスをせよ」 きっとこの経験がどこかで役に立つだろうと、前向きな気持ちでこの難題を乗り切りつつあります。

国内の展示会の様子
国内の展示会の様子

13.世界に飛び立つMokkun

この塗り壁は海外にも少しずつ販売できています。韓国、中国、台湾といったアジアの身近な国が興味を持ってくれて、現地での施工実績も一部ですが出てきています。
特に韓国はヒノキに対する国民のイメージが大変良く、塗り壁もヒノキの香りがするということから多くの引き合いをいただき、現地ではヒノキリゾートといって、ヒノキをふんだんに使ったリゾート施設で施工されており、またその動きが広がりつつあります。
これらの国々へは過去6年ほど続けて現地で開催される展示会に出展しています。特に韓国へは会社が初めて海外展示会に出展した年から連続で出展し続けました。当初からブース内でのMokkunの塗実演だけは続けて行っています。現地の言葉など全く分からない私たちが現地通訳さんと出展ブースに居るだけで、その匂いに引きつけられるように来場者が集まってくるのがとても印象的です。とにかく韓国において、「ヒノキの香り」は大変効果的な商材です。そういった状況を見ながら、きっと韓国でも受け入れてもらえるという、根拠のない自信のようなものがありました。
その後いくつかの韓国業者様への販売ができ、写真の様な大型リゾート施設の施工までにこぎつけました。

韓国での展示会の様子
韓国での展示会の様子
韓国のヒノキリゾート施設の天井にMokkunを使用した施工例
韓国のヒノキリゾート施設の天井にMokkunを使用した施工例

ただ海外へは今まで別の商品を輸出した経験はありましたが、こういった施工を伴う商品を販売するというのは初めての経験で、実は苦労しています。
まず自然素材を扱うということで、施工マニュアルに従って施工してもらいます。現地の言葉に翻訳するのに翻訳を依頼するケースがほとんどですが、日本語の微妙なニュアンスが果たして伝わるかというのは疑問があります。また施工現場を逐一自分たちで確認して指導できないという不便さもあります。
実際に今まででもとても重要な工程を省かれて、施工がうまくいかなかったケースがいくつかありました。そのたびに何度も丁寧に説明し、何とか施工を重ねるごとにうまくできるようになっていったという感じです。
こういった商品を扱うには、まず現地に信頼できるパートナーを持つことが最優先かもしれません。

こうやって今までの様々な出来事を振り返ると、岐阜の中小企業が始めた小さな事業がいつのまにか日本全国各地への販売となり、さらには海を越えて海外までもというのは感慨深いものがあります。
今はパートナーがいる韓国、台湾での販売が主ですが、それ以外にもヨーロッパの国々からの問い合わせも増えてきていますので、将来的には広く海外販売できるようになることが一つの夢でもあります。

14.Mokkunを通じた私たちの取組

Mokkunはまだ完成形ではありません。常に新しい素材を探したり、実験をしたりそんなことを繰り返しています。 またMokkunを使った関連製品もどんどんアイデアを出して商品化してきています。
このシリーズは未利用資源を活用するという発想の一つであって、その発想からスタートすれば、様々な商品展開が可能なのがMokkunのよいところでもあります。いまでは、部屋の中に設置できるミニルームとしての「森林浴ルーム」やDIY商品としての塗り壁パネルなどもMokkunをベースにして発信しています。
またワークショップなどでは、子どもたちが自分たちで練ったMokkunを使って装飾用のパネルを作ったり、手形を作ったり、そんな活動を通じて本物の木に触れる体験や、木の香りを嗅ぐという体験を通して、木の良さを肌で感じてもらう活動を進めています。

Mokkunを内壁に塗った森林浴ルーム
Mokkunを内壁に塗った森林浴ルーム
ワークショップでの様子
ワークショップでの様子

意外と親世代であっても、本物の木に触れたり、木の香りを嗅いだりというような体験は少ないものです。このMokkunは水を入れて練ることで塗り壁の素地になりますが、木粉が水分をふくむことで木の香りが良く感じられます。実際にワークショップをしていたり、展示会場で塗実演していても、その香りに惹かれて来場者がやってくることも珍しくありません。

自然の心地よい香りは、精神を落ち着かせリラックスさせるということが感覚的にも分かってもらえると思います。子供さんたちにはこういった経験をすることで、木に対する理解を深め、「木っていいなあ」という感覚を持ってもらえたらと思いながらこういった活動もしています。

それが私たち木を扱う会社としての一つの取組でもあります。

15.「木と暮らす」を提案し続ける、私たちの役割

私たちは材木屋のDNAを引き継ぐ企業として、今後も「木と暮らす」をテーマに木にこだわった住宅作りを提案していきたいと思います。 もちろんMokkunの研究の中で木の特性や、木を身近に感じて生活することで感じられる人の健康に対する様々な影響や効果を明らかにしていきたいと思っています。目指すはウエルネス住宅です。

その中で当然地域材の利用促進にも目を向けながら、Mokkunだけでなく、これらの地域材をふんだんに使用した住宅開発をし、そして地域の様々な業界の企業様と連携して大きな共同体となり、中小企業が大手に対抗できるだけの組織力と仕入れ&販売力を持ちたいと考えています。

こういった思いで、平成31年の春に弊社の社長が発起人となって「ぎふの木ネット」という地域材利用住宅促進のための協議会を設立します。

日本の最古の木材建造物は法隆寺と言われます。日本人は1400年以上も前から建築物の構造采として木を選択し、それを建築の中にうまく組み入れていました。
このように太古の昔から木の住まいで生活を営んできた日本人は、木材が何より建築材料として適しているということを知っていたからだと思います。自然の恵みである木材が持つ調湿作用や断熱効果、そして天然の木が放つ香りの鎮静作用や殺菌効果などを知っていたのです。
未来の暮らしや社会がどのように変わろうとも人と木とのかかわりは薄れることはないと思います。
再生可能な木材資源を有効に活用し、健康的な住まいを提案し続けることが、私たちの役割だと思っています。